昨夜のテレビ朝日「報道ステーション」で、自民党石破茂政調会長が、「原発を減らして、自然エネルギーを増やしていく事には賛成だが、完全になくして良いとは思わない。日本がその気になれば1年以内に核兵器を作る能力があると周囲の国に思わせる事は、抑止力に繋がる。」という主旨の発言をしました。
これまでも、こうした発言をする人はいましたが、私が記憶する限り、自民党の政調会長という要職にある国会議員が、プライムタイムのニュース番組に出て語るのは初めてだろうと思います。
原発が核抑止力であるという論は、原発推進派としては最終兵器とでも言うべきもので、他国から批判を浴びる可能性があるため、できれば言いたくなかったはずです。
それでも言わざるを得ないほど追い込まれたと見ることもできます。
逆に言えば、この最終兵器を論破されると、原発推進派に、ほとんどまともな武器はなくなるとも言えます。
では、原子力発電を核抑止力のために続ける事は、安全保障上有効な戦略と言えるのか考えてみたいと思います。
昨年10月に放送されたNHKスペシャル「スクープドキュメント “核”を求めた日本」で描かれたように、中国がアジアで初めての核実験に成功した際、日本は核兵器の開発を具体的に検討し、「原爆を保有する事が適当である」という方針を決めました。
しかし、アメリカは日本に核兵器の保有を許しませんでした。それどころか、核兵器を「作らず、持たず、持ち込ませず(アメリカを除く)」という非核三原則を誓わせました。
戦争をした相手である日本に核兵器を持たせるほど信頼をおいていないという事でしょう。
しかし、原発の推進は認めました。なぜでしょうか。
私は、3つの意味でアメリカにとって利益となり、脅威とはならないと判断したのだろうと思います。
2つ目は、確かに原発で得られるプルトニウムを加工すれば核兵器を開発する事は可能ですが、1年程度はかかるため、対処する時間的余裕は十分ある事。
3つ目は、原発には、1か所あたり原爆数千~数万発分※1の核分裂生成物、いわゆる死の灰がたまるため、それを攻撃すれば、いつでも日本を誰も住めない土地にできる事。
つまり、原発が日本各地にできれば、利益を得ながら、ほとんどリスクなく日本国民を人質に取れるようなものですから、アメリカにとっては好都合なのです。
今は、戦後66年経ちましたし、日本国民は人質にできていますから、中国の脅威に対抗するため、重い軍事費用の一部を日本に負担させようと、核保有を認める考えの人もアメリカの一部にはあるかもしれません。
しかし、それがアメリカ国内、日本国内でコンセンサスを得て、日本が核兵器を持つ事になる可能性はほとんどないでしょう。
アメリカと敵対し、その結果として核保有に至る事は前述の理由から、さらに可能性がないでしょう。
いつかは核兵器を保有し、自由に行動できる自主独立した国に、という幻想を抱いている人が一部にいるようですが、原発を持っている限り、絶対にそれは無理です。
では、抑止力はいらないのか。残念ながら、それほど世界の情勢は甘くないでしょう。
その替わり日本は、原発を確実に破壊する事が可能な通常兵器を装備すれば、 核兵器に近い抑止力を持つ事ができると思います。
核兵器は、大量の市民を殺戮する事で、国力をそぎ、戦意を喪失させるために使うものです。
原発を破壊すれば、大量の市民を殺し、土地を使用不能にすることになりますから、同じようなものです。
どちらも今後、実際に使用される事はないでしょう。その可能性をちらつかせる抑止力としてだけ存在意義がある兵器です。
そうであれば、コストが大幅に少なくて済む通常兵器で良いではないですか。
また、原発が破壊できるという事は、気付かれないうちに正確に的中し、貫通力がある兵器という事ですから、テロ組織の拠点を叩いたり、一般人への影響を極力抑えたピンポイント爆撃なども可能になります。
平和憲法を持つ日本が、外国に対して使う可能性は、現時点ではありませんが、大量殺人だけが目的の核兵器を持つ事よりは現実的ですし、敵対国に対し、いざとなったら、原発を破壊されたり、ピンポイントで攻撃されたりする可能性がある、と思わせる事ができれば、十分抑止力となるでしょう。
つまり、原発を推進することは、日本国民を人質にし、自主独立から遠ざかる道であり、抑止力としては、原発の破壊が可能な通常兵器を持ち、原発は廃止に向けて進んでいくのが、安全保障上有効な戦略だと思います。
※1 東京電力は4月12日の記者会見で、福島第一原発のすべての原子炉内の燃料、使用済み核燃料を合計すると、10の20乗ベクレル単位の核分裂生成物が存在した事をあきらかにしています。20乗は垓(がい)、すなわち京(けい)の1万倍、兆の1億倍です。