未来の人類に生命あふれる地球を残そう!

環境ジャーナリスト 講演講師 富永秀一 ブログ

人間開発報告書の警告

 『人間開発報告書2007/2008』が公表されました。

 国連開発計画(UNDP)が毎年発行している物で、今回のテーマは、「気候変動との戦い-分断された世界で試される人類の団結」です。

 この所、立て続けに、人類の危機を訴える報告が出ていますが、こちらも、かなり厳しい内容となっています。

 上でリンクを張ったのは概要版ですが、全部読んでいる暇はないという方のために、分かりやすいところを抜粋してみます。

 引用部分は斜体です。

 報告書は、40年前のマーチン・ルーサー・キング牧師の言葉からはじまっています。

「過ぎていく時間に対して、待ってくれと泣きついても、時は聞く耳をもたず、どんどん先に進んでしまいます。

ざらしになった白骨の山と数知れない文明の瓦礫の上に、痛ましい言葉が記されています。

『手遅れ』という言葉が」

 これは、社会正義について語ったのですが、気候変動の危機に直面している私達にも、まさに当てはまる内容です。

 人類が何度も繰り返してきた文明の崩壊。しかし、これまでは一定の地域内でのことでした。その地を追われても、他に行くところがありました。しかし、今回の危機は、地球規模です。

将来への影響が不確実であることを理由に、抜本的な気候変動対策を講じることに慎重であるべきだと主張し続けている論者もいる。しかし、この議論は出発点からして間違っている。確かに、わかっていないことは多い。そもそも気象科学は、蓋然性とリスクに関する学問であり、確実性を論じる学問ではない。それでも、子どもや孫の世代の幸せを大事に考えるのであれば、どんなにリスクが小さくとも、破局的事態が起きる危険性があれば念には念を入れて予防策を講じるべきだろう。

 そうなのです。環境問題は、危機管理の問題なのです。

 危機管理は、最悪のケースを想定して対策を取っておくべきものです。特に、予測が当たった場合の被害が甚大であれば、なおさらです。

20世紀には、政治的リーダーシップの破綻が2度の世界大戦を引き起こし、本来避けられたはずの大惨事のせいで大勢の人々が大きな代償を支払わされた。危険な気候変動は、21世紀以降の世界にとって、避けられるはずの惨事である。気候変動が起きている証拠を目のあたりにし、そのもたらす結果を理解していながら、世界の最も弱い人々を貧困状態に押し込め、未来の人類を地球環境の破局というリスクにさらせば、私たちは未来の世代から厳しく糾弾されても仕方がない。

 人類は知恵を持ちながら、感情や惰性に流され、避けられるはずの危険のただ中に突っ込んで行き、大きな犠牲を払ってきました。

 この道を行くと崖があると予測されているのですから、ハンドルを切り、違う道へ向かわなければなりません。

地球の気温上昇の危険水準は、2℃前後であるが、おおまかに言うと、この水準を超えれば、人間開発のプロセスが急速に退行するばかりか、環境に回復不能なダメージが及ぶことが極めて避けがたくなる。

 19世紀末と比べて、地球の平均気温は、まだ0.8度ほどしか上がっていないのに、これだけ、異常な現象が目立つようになっているのです。

 2度以上上がった場合、取り返しがつかない事態になることは、十分に予測できます。

このままで行けば、世界はこの大台をあっさり突破してしまうだろう。気温の上昇を2℃以内に抑えられる確率を50%にするためだけでも、二酸化炭素に換算して約450ppm 相当で温室効果ガスの濃度を安定させなければならない。濃度が550ppm まで上がれば、上昇が2℃を超える確率は80%まで上昇する。

 このような事態を避けるためには、相当な努力が必要となります。

2050年までに温室効果ガスの排出量を1990年の半分まで減らし、その状態を21世紀末まで持続させなければならない。しかし、世界は1つの国とはわけがちがう。信頼性のある試算をもとに考えると、危険な気候変動を回避するために、豊かな国々は少なくとも排出量を80%削減する必要がある。しかも2020年までに、30%の削減を成し遂げることが求められる。途上国の排出量も2020年ごろを境に減少に転じさせ、2050年までには20%減らさなくてはならない。

 つまり、現在1人当たり、途上国の数倍から数十倍の二酸化炭素を排出している先進国は、その分、大幅に排出量を減らす必要があると訴えています。

この排出量安定化の目標を達成するのは簡単ではないが、経済的に実行不可能ではない。2030年までにかかる年間のコストは、世界のGDPの1.6%相当と試算されている。確かに少ない投資ではないが、この金額は世界の年間軍事支出の3分の2に満たない。なんの策も講じなければ、気候変動による損失は、世界のGDPの5~20%に達する可能性がある

 企業向けの講演会で良く話をするのですが、避難所暮らしを繰り返すようになっても、人々は、大型テレビを買おうとするでしょうか?高級車に乗ろうとするでしょうか?経済優先と言っても、このままでは、市場がなくなってしまいますよ、ということです。

 今、余力があるうちに行動を起こさなければ、企業にも未来はなくなるのです。

 報告書では、分野ごとに具体的な予測をしています。

■農業生産と食糧安全保障

 降雨パターンや、気温の変化などにより、広い地域で農業生産が減り、栄養不良に苦しむ人の数は、2080年までに、6億人増加。

■水の不安

 2080年までに、水不足に苦しむ人は、18億人増加するかもしれない。

■海水面の上昇

 地球の気温が3~4度上昇すれば、土地の水没により、3億3200万人が一時的、もしくは恒久的に住居を失う恐れがある。

■生態系と生物多様性

 気候の変化のペースについていけず、地球の温暖化が3℃進行すれば、陸上生物の種の2~3割が絶滅の危機に瀕する恐れがある。

■病気

 マラリア感染の脅威にさらされる人口は、これまでより2億2000~4億人増加するかもしれない。この病気は現在、年間約100万人の命を奪っている。

 二酸化炭素の排出量を減らすための方策として、炭素税の導入と、排出権取引の活用を挙げています。特に、炭素税については、具体的な税額も例示しています。

2010年に二酸化炭素1トンあたり10~20米ドルの炭素税を導入し、その後毎年5~10米ドルずつ増額していき、最終的に二酸化炭素1トンあたり60~100米ドルまで引き上げるというものである。この枠組みを採用すれば、投資家と市場が将来の投資を計画するにあたって、明確な予測を立てやすい。

 炭素税は、一部企業には大きな打撃となりますが、税収を、環境対策や、環境配慮型製品への補助に使うなど、環境分野への取り組みをしている企業や消費者がトクをする仕組みにすれば、加速度的に社会が変化していく可能性があります。

 私が訴えているエコ・ゴージャスにつながる記述もあります。

OECD加盟国内のすべての電気製品(2005年の台数で計算)がエネルギー効率の最も高い製品だったとすれば、2010年までに二酸化炭素排出量を約322メガトン減らせる計算になる。これは、1億台の自動車を道路上から排除するのと同じ効果である。家庭の電力消費量は、4分の3に減るだろう。

 その他、車の燃費規制の強化、炭素貯留技術の開発、環境技術の途上国への移転、森林破壊の防止などが必要と訴えています。

 最後に、アメリカ独立宣言に署名した際に、ベンジャミン・フランクリンが言ったという言葉を使って、国際的な取り組みの必要性を訴えている部分をご紹介します。

「我々は一致団結しなければならない。さもないと、おのおの別々に絞首刑に処せられてしまうだろう」。今日の不平等な世界では、共同の解決策を見出すことに失敗すれば、一部の人たち、とくに貧しい人たちが先に「絞首刑」にされかねないが、究極的にはすべての国のすべての人が危険にさらされる。しかし、この危機を予防することは不可能ではない。今日の世界に生きる私たちも、共通の問題に対して一致団結して共同の解決策を見出すか、ばらばらに「絞首刑」になるかの選択を迫られているのである。